マルチタスクに溺れずに済む、定時帰り仕事術(原文)¶
コンサル時代に鬼のように生産性が高い上司がいまして。 その人は、プロジェクトを掛け持ちしながら、常人の5人分くらいのタスク量を平気でこなしていました。しかも、残業ゼロとまでは行かずとも、夜の20時くらいには「じゃ、お疲れ」と帰宅していく。 きっと、彼ならではのマルチタスク攻略法があるのではないか? そう思いながら上司を観察していました。 そして、ある一つのことが判明しました。 どんなに超人的な人であっても、マルチタスクなんてやっていませんでした。 マルチタスクの攻略法なんてものは、存在しない。 代わりに見つかったのは ・マルチタスク状態をシングルタスク化する技術 ・シングルタスクのままやり切る集中力 この2つでした。 実際、私もその方法をパクってみて7年以上たちますが、今では会社員として働きつつ、自分の法人も経営していて、複数のプロジェクトを並行で走らせつつも、ほぼ残業なく気楽に働けています。 そこで今回は、「マルチタスクに溺れずに済む、定時帰り仕事術」というテーマで、実際にやってみたことを書き残しておこうかと。
人間の脳は根本的にマルチタスクが苦手 マルチタスクとは「複数の作業を同時に、あるいは立て続けに行うこと」を意味します。 例えば、会議に参加しながら、内職してメールを返信する。 これもマルチタスクの一種です。 マルチタスクをこなせる人って、仕事ができる感じがするじゃないですか。 でも、むしろ逆で、マルチタスクしている人ほど、クソほど非効率なことをやってしまっている。 そもそも、脳は二つ以上の作業を同時に効率よく処理できません。 会議で内職しながら、資料を作る→会議を聞く→メールを送る→会議で発言する→資料の続きを作る ・・・この作業の切り替えのたびに無駄な「再立ち上げコスト」が発生し、全体としての作業は遅くなっています。 だって、資料を内職して作っている間、会議の話なんて理解できていないじゃないですか。で、会議中に「○○さんはどう思いますか?」と急に話を振られて、タジタジと回答をしてします。 そして、会議での発言を終えて、また資料の作成を再開させようとすると「あれ、何してたっけ?どこまで何を考えたっけ?」と思い出す作業からやり直さないといけない。 人間の脳ミソは、この「再立ち上げコスト」にとことん弱いのです。 *** ここで、スタンフォード大学が2009年に行った面白い実験があるので、紹介させてください。 https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.0903620106 研究者たちは、普段から「ながら作業」が多い人と少ない人を比較実験しました。ここでいう「ながら作業」とは、たとえばテレビを見ながらスマホでメールをチェックし、同時にSNSも更新するような行動のことです。 実験では、画面に赤と青の図形を表示して「赤い図形だけに注目してください」と指示しました。すると驚くべき結果が出ました。普段からながら作業をしている人ほど、青い図形(見てはいけないもの)に気を取られて、課題の成績が悪くなったのです。 別の実験では、「数字を見たら偶数か奇数かを答えて、文字を見たら母音か子音かを答えて」という指示を出しました。これも同様の結果でした。ながら作業に慣れている人ほど、指示とは関係ない情報に注意が向いてしまい、正確に答えられませんでした。 最も興味深いのは次の結果です。「マルチタスクが得意な人なら、作業の切り替えも上手だろう」と予想されましたが、実際は逆でした。普段からながら作業をしている人ほど、一つの作業から別の作業に移る時の効率が悪かったのです。 なぜこんなことが起こるのか? 人間の脳は、同時に複数のことを処理しているように見えても、実際は高速で注意を切り替えているだけなんですね。 テレビを見ながらスマホを操作しているとき、脳は「テレビ→スマホ→テレビ→スマホ」と猛スピードで切り替え続けています。 この切り替え作業を日常的に繰り返していると、脳が「常に何かを探し回る」癖がついてしまいます。一つのことに腰を据えて取り組もうとしても、「他に何か面白いことはないかな?」と別のことに気を取られやすくなるのです。 *** ということで、長々と書きましたが「マルチタスクは絶対に絶対に絶対にやめとけ」というメッセージが伝わりましたでしょうか。
とにかく「シングルタスク」に落としこむ では、複数のプロジェクトを卒なく回している風に見える人は、どうやって効率よく仕事を処理しているのか。 答えは「マルチタスクをシングルタスク化して、確実に1つずつ終わらせている」です。 タスクを同時並行で進めるのではなく、爆速で順次片づけていっている。 具体的には、次の2つの技術が優れているといえます。 マルチタスクをシングルタスク化して、優先順位を外さずにつける 1つのタスクをやっている間、他のタスクは完全無視する 順に見ていきましょう。
技術①:マルチタスクをシングルタスク化して、優先順位を外さずにつける 複数あるタスクを同時に処理しようとせず、1つずつ処理する。 そのためにも、タスクの優先順位を明確につける必要があります。 「優先順位を明確に」というのは、1番、2番、3番・・・と重複なく番号をつけることを意味します。 つまり、1番に着手するタスクは1つだけ、2番目にやるタスクも1つしか存在してはいけません。 「これも、あれも、それも1番大事」というのはナシです。 では、どうやって優先順位をつけるか。 手書きで恐縮ですが、僕は、以下の図のフローに沿って順番をつけるようにしています。
1番に優先すべきは「誰かに依頼が必要なタスク」 最初にやるべきは、誰かにボールを渡さなきゃいけない類のもの。 なぜならば、自分がそのボールを持っている間は、そのタスクの進捗が完全にストップするから。 ・自分が依頼しないと進まないもの ・自分が仕上げた成果物を使って、次の人が進めるもの …そういったタスクを最も優先して処理しましょう。
2番目に優先すべきは「10分以内に決着がつくタスク」 手を動かして10分以内に決着がつくタスクは、その場でさっさと処理してしまいましょう。 なぜならば、未処理のタスクが蓄積すると、集中力が阻害されるから。 この現象は「ツァイガルニク効果」と呼ばれます。 人間の脳は、終わったことよりも、まだ終わっていないことを強く記憶し続ける性質があります。 やり残しが頭の片隅で引っかかり続けるため、別の作業に意識を向けても、無意識にそのタスクへ注意が奪われてしまう。 だからこそ、小さな用事や短時間で終わる作業は、すぐに片づけて心を軽くしておくことが、集中力を保つコツになります。
3番目に優先すべきは「3営業日以上かかるタスクの分解」 次に優先すべきは、3営業日以上かかることが見込まれるタスクです。 3営業日以上かかるということは、それくらい難易度が高いということ。 難易度が高いので、想定以上に工数を要してしまう可能性もあります。 そういったタスクは、「3営業日以内で完了するタスクの粒度」に分解しましょう。 「3営業日」と線引きしているのは、1週間(5営業日)以内に何とか気づいて挽回が可能なギリギリの日数だから。 例えば、「これ1週間後までによろしく」と任されたタスクを放置しておいて、締め切り直前に着手すると「やべ、これ終わらねーじゃん」となってゲームオーバーになります。 そうならないように、3営業日以上かかるタスクをもらったときは、優先的に手を動かして、段取りを考えてみる。 そして、3営業日以内に完了する粒度で、タスクを分解してみる。 そうやってタスクを分解したタイミングで「これ厳しそうだぞ」とわかれば、その時点で上司にアラートを出すことができます。
最後は、締め切りが近い順に着手する 先ほどのフローチャート通りになぞっていけば、この段階では「他人にすぐ依頼する必要のない、工数が10分以上、3営業日以内のタスク」が手元に並んでいる状態です。 ここまでくれば、締め切りが近い順に、1つずつ処理していきましょう。
技術②:1つのタスクをやっている間、他のタスクは完全無視する 優先順位をつけたあとは、1つのタスクをやっている間、他のタスクは完全無視する。これが簡単なようで、難しい。 というのも、1つのタスクに着手している間、メールやチャットの通知が鳴ったら、ついその連絡を開いてしまう、なんてことがあるからです。 実際に「通信環境が整った状況でスマホが手元にあると、それだけで作業中の認知能力が低下すること」が研究で証明されています。 これは、2017年に発表された「Brain Drain(脳の消耗)」の研究によって科学的に実証されています。 この研究では、スマートフォンの単なる存在が私たちの認知能力にどのような影響を与えるかを検証するため、興味深い実験が行われました。 実験では、548名の大学生を対象に、スマートフォンを3つの異なる場所に置いてもらいました。机の上に置くグループ、ポケットやバッグに入れるグループ、そして別の部屋に置くグループです。すべての参加者のスマートフォンはサイレントモードに設定され、実験中の使用は禁止されました。つまり、スマートフォンからの通知や誘惑は一切ない状態です。 その上で、参加者には頭を使う課題をやってもらいました。具体的には、単語を覚えながら同時に計算する「自動化操作スパン課題」と、パターンを見抜く力を測る「レイヴン標準推理問題」です。 どちらも集中力や記憶力、論理的に考える力をまとめてチェックできる、いわば「創造的な仕事に必要な頭の力」を測るテストでした。 結果は、次のとおり。 スマホを別の部屋に置いたグループが最も高いパフォーマンスを示した スマホをポケットやバッグに入れたグループが2番目のパフォーマンス スマホを机の上に置いたグループが最も低いスコアを記録した 人間はこれくらい、スマホに弱い生き物なんです。 したがって、シングルタスクに集中し切るためにも、チャットツールの通知は基本的にオフにしています。 そして、スマホは部屋のバッグの中に収納しています。本当は別の部屋に置きたかったですが、保育園からの呼び出しの電話があるかもしれないので、やむなしです。 そして机の上は、↓のように、雑音となる物は一切置かない。 注意力散漫な僕は、ここまでやってようやく、目の前のシングルタスクに全力集中できるようになりました。
まとめ 最後に、大量のタスクを溺れることなく捌き切る方法についてまとめておきます。 人間の脳は根本的にマルチタスクが苦手。人間の脳は、同時に複数のことを処理しているように見えても、実際は高速で注意を切り替えているだけ。注意を切り替えるたびに脳に負荷がかかる まずは、マルチタスクをシングルタスク化する 1番目に優先すべきは、他人に依頼が必要なタスク。自分がボールを持っている間、何も進まなくなってしまうから 2番目に優先すべきは、10分以内に決着がつくタスク。未完了のタスクが溜まると、集中力がどんどん下がる。だから、未完了状態をなるべく減らしておいたほうがよい 3番目に優先すべきは、3営業日以上かかるタスクの分解。3営業日以上かかるような大きめのタスクは、いったん手を動かしてみて、3営業日以内に完了するタスクの粒度に分解をしてあげること。そうすることで、タスクの全体像がわかり、かつ納期遅れも防ぎやすくなる 1~3番目に引っかからなかったタスクは、締め切りが近い順に処理していく 次に、シングルタスクに集中し、他のタスクは完全無視。①チャットやメールの通知オフに、②スマホは視界から外す、③机の上にはPC類以外は何も置かないようにし、気が散る要因を排除する この手順を機械的になぞるだけでも、仕事の生産性がかなり変わるはずです。